1.マンション大規模修繕におけるコンサルタント(設計事務所)の位置づけ
T.工事と切り離した第三者としての技術者の必要性
分譲マンションの場合、区分所有者全員がオーナーであり、その中には様々な考え方、職業の方がいらっしゃいます。大規模改修工事を行うお金も、修繕積立金として区分所有者全員で貯めてきたものです。
大規模改修工事の様な大きな金額の動く工事を決定する場合、「なぜその工事業者に依頼したのか?」「その工事業者は信頼できる会社で、実績はあるのか?」「適正な価格で契約したのか?」等、施主である全ての区分所有者からの質問に明確に回答する必要があります。
その為には、厳正なルールに則った入札を行って、工事業者を決定しなければなりません。
入札を行うに当たっては、
@改修設計図 A予算書・数量書 B改修工事仕様書 C現場説明書 D見積要項書
等が必要になります。
@改修設計図は、建物のどこを、どの様に改修するのかを細かく指示した図面です。
A予算書・数量書は、設計図に基づいて設計事務所が各部の数量等を積算し、一般的な工事単価を入力して工事金額の予算を建てた物を予算書と言い、その金額部分を白紙にして、項目と数量だけにしたものを「金抜き数量書」といいます。
B改修工事仕様書は、図面に記入してある工事内容の、各項目毎に更に細かく仕様・手順を示したものです。
C現場説明書は、工事の概要、入札の手順・スケジュール等を業者に説明する書類です。
D見積要項書は、業者が見積をする際の、細かなルールを示した書類です。
管理会社が主導で大規模修繕を進める場合はこれらの書類が無いまま、複数の施工業者に合見積りを依頼するケースが稀に見受けられますが、これでは各社毎に工事内容や改修の仕様・数量がバラバラになってしまい、金額を見ても何処が適正で本当に安いのか分かりません。
また、建築素人の集まりである管理組合の場合、結局ただ単に提示金額の安い業者を選びがちとなり、まともな工事が行なわれずにトラブルの原因となることもあるようです。
一方、それらの図面や書類の作成の為に、調査・診断を行い、建物を守っていく為に、どこに、どのよ
うな改修を行う必要が有るのかを判断し、ご提案するのが我々コンサルタント(設計事務所)の仕事です。
重要なのは、我々がコンサルタントであって、自ら施工を行わず、工事業者との利害関係を持たない、
第三者であると言うことです。
工事金額の高い・低いが自らの利益を左右する施工業者の立場では、本当に公正な立場での工事提案は出来ません。「この部分については今回は改修の必要は無い、長期的に考えて次回に廻した方が良い。」という様な発想は、自分の収益を減らしてまでは出来ないものです。
U.工事監理者の必要性
工事管理とは、施工業者が行うもので、全体の工程計画・下請け業者の手配・安全管理などの事を言い、いわゆる現場監督:現場代理人の責任で行います。(いわゆる現場監督さんによる管理です)
これに対して工事監理とは、施工が設計図書通りにきちんと行われているか、施工業者の施工管理に問題はないか、第三者の立場で監視する仕事の事です。(独立系の設計事務所が行なう監理です)
施工業者も改修のプロであり、より良い品質で工事を行いたいのは当然の事です。しかし、彼らにとって工事金額の中からより多くの利益を会社に残すことも重要な仕事であり、非常に手間暇の掛かる施工方法、大幅な手直しの伴うチェック等はどうしても避けてしまいがちです。(これは会社の体質、現場監督によってもかなり差があります。)そこで、工事費から得られる利益と関係の無い、第三者として品質を確保する技術者が必要なのです。
2.コンサルタント(設計事務所)をどうやって選ぶか?
業者は詳細な設計書を作って入札で選ぶ。では、コンサルタントはどうやって選べば良いのか?
コンサルタントを選定するに当たっては、一般的には金額のみでは無く、数社のヒアリングを行って、各社の仕事の進め方、何処まで資料を作成するのか(調査診断書・改修提案書・概算書・予算書・設計図等)、実績はどの位あるかをプレゼンさせて決定します。コンサルの場合は工事と違って、仕事の量、質が各社まちまちですので、このプレゼンを見て管理組合で充分に協議して判断する事になります。金額の安さだけで決めてしまう事だけは避けた方が得策です。
どんなコンサルタントが良いのか?
改修工事のコンサルタントには様々なスタイルがあります。
@新築も行う建築設計事務所が、改修工事の設計・監理も行っている
A改修工事のコンサルタント専門に新たに作られた設計事務所(マンション診断設計協同組合)
B改修施工業者が立ち上げたコンサルタント部門
等が主なところです。
それぞれに一長一短はありますが、Bについて、コンサルタントを受け持った物件の施工をも自社で受注しようとする場合は、監理者の第三者性が保てず、問題がある事は誰の目にも明らかです。
当社はもちろん、@に当たります。
また当社はAのマンション診断設計協同組合にも所属しております。
大規模改修工事で改修を行う部分がたとえ屋上防水や外壁塗装のみであったとしても、鉄筋の爆裂や、コンクリートの打設不良等、それがどのような過程で発生するのかを知る為には、建物をゼロから造る経験を積んでいない者には分からない事が沢山あります。又、改修に加えて一部に屋根を架けたいとか、開放廊下にスクリーンを付けて塞ぎたい等、建築法規に係わる改造工事が出た場合、建築基準法や消防法、各種条例等の法規を熟知していなければ即座に対応が出来ませんし、場合によっては確認申請を出す必要も出てきます。
又ありがちなトラブルの例としては、「リフォームで換気扇を新設したい」「設備用配管を新設したい」等の理由で、コンクリートの壁に穴を開けなければならない場合、設計の経験がある者が居ない為に、「構造上重要な鉄筋を切ってしまった」という様な重大な事態に発展する例もあります。さらに怖いのは、誰かがそれを指摘しなければ、その後もそれに誰も気づかないままになると言うことです。
これらの様な理由で、改修工事の設計・監理は新築設計も行っている一級建築士がしなければならないと考えていますし、建築物を設計し、この世に生み出す者の責任でもあると考えています。
逆に新築設計のみを行い、改修設計は行わない設計事務所もあります。知人に頼まれた、新築の仕事が減った、等の理由でそういった事務所が突然調査・診断・改修設計等に手を出す事がありますが、改修には改修の専門知識と経験が必要ですから、良い仕事が出来るとも思えません。
(有)立石建築設計は、建物を生み出す設計事務所としての仕事も行いながら、調査診断・大規模改修の設計・監理をしております。過去に蓄積した、新築設計だけを続けていても絶対に得られなかった知識(建物の弱点、やってはいけない納まり、どんな部分にひび割れが生じるのか等)は、よりレベルの高い設計への糧となっています。そして新築の設計・現場監理を続けている事で、建物のどこにどのようなトラブルが生じるのかを深く理解し、調査・診断に活かす事ができるのです。
長い付き合いができそうか?
調査診断・改修設計を依頼したコンサルは、その建物の事を細部に渡るまで知る事になります。その様な貴重な技術者と、大規模改修が終わればサヨウナラでは非常にもったいないと言えます。大規模改修が終わっても、その後のメンテナンス・定期点検への立会・長期修繕の見直し・設備改修の計画等、気になることがあれば気軽に相談できる、建物の主治医として長くつきあっていけそうか?ヒアリングの際にはそういった視点で、人間性も含めて観察される事をお奨めします。
3.業務の流れ
業者は詳細な設計書を作って入札で選ぶ。では、コンサルタントはどうやって選べば良いのか?
建物調査診断業務
- 1.現在に至るまでの改修実績についてヒアリング実施
- 2.既存資料整理・調査用図面作成
- 3.アンケート調査・分析
- 4.建物調査/目視、打診、触診/部位別記録写真撮影
- 5.建物調査/バルコニー立入調査(全戸数×約10%) など
改修提案業務
- 1.管理組合にて実施されるアンケートの集計、分析
- 2.建物調査結果から判断して、適切な修繕及び改修仕様を提案
- 3.マンション全体に関わる機能面、デザイン面での提案
- 4.将来的に持ち上がるであろう問題点の整理
- 5.上記問題点に対する対応策の提案 など
設計業務
- a)修繕部位(参考)
- 1.屋上、パラペットなど 防水修繕
- 2.バルコニー・ポーチ・階段など 共用部修繕
- 3.外壁修繕(クラック、爆裂部処理)
- 4.既設シーリング(コンクリート打継、サッシ廻り)修繕
- 5.鉄部、非鉄金属部塗装修繕(塩害対策等考慮) など
- b)必要設計図面の作成
- 1.特記仕様書
- 2.仕上表
- 3.配置図・案内図
- 4.平面図
- 5.立面図
- 6.仮設計画図
- c)修繕工事費概算見積書の作成
- 1.必要工事項目の整理
- 2.工事種目の決定
- 3.工事種目別数量書の作成
- 4.設定単価の決定
- 5.概算見積の集計
コンストラクションマネジメント業務
- 1.工事着工までのタイムスケジュール作成 ※委員会、理事会日程との調整 など
- 2.見積参加業者の選定基準の設定、選定 ※例:国土交通省、経営審査事項評点
- 3.図面説明会配布資料の作成 ※見積要項書、項目参考書、質疑応答用紙、修繕設計図
- 4.図面説明会の開催 ※集会所にて指定時間別に見積参加者に対して図面説明を行う
- 5.質疑応答の実施 ※FAX又は電子メールにて執り行う など
監理業務
- 1.工事説明会の準備 ※説明方法、説明者他各役割分担、質疑応答想定
- 2.工事説明会開催 ※区分所有者、居住者の方々への工事内容、工事中の対応策などについて説明
- 3.現場定例会議開催 ※工事期間中、原則週1回 現場定例打合会議を実施 ほか
- 4.中間検査実施 ※各種工事施工中に下地、仕上について検査実施
- 5.工事経過説明 ※発注者への定期報告(修繕委員会出席 月1回程度) など
4.長期修繕計画書を見直しましょう
建物をきちんとメンテナンスしていく為には、それにどれだけのお金が必要なのかを把握する必要があります。
25〜30年程度の長いスパンで、いつ頃どんな改修が必要になり、どれくらいお金が掛かるのか?その計画をきちんと立てる事で、現在の修繕積立金の金額で足りるのか?今の内に値上げをしなければ後で大変な事になるのか?その現状を把握する事ができます。
修繕積立金が安いと喜んでいる区分所有者の方もいらっしゃいますが、その結果近い将来、
「必要なメンテナンスをするお金が無い」→「一時金を徴収するか?」→「そんなお金は出せない」
という最悪の流れになります。
新築当時から住んでいる区分所有者はどんどん高齢化し、収入も少なくなってくる上に、メンテナンスの出来ていない、老朽化した古いマンションでは新しい住民も入ってこない。そうなると更に修繕積立金が集まらない。この様なスパイラルに陥り、ついにはスラム化していくことになりかねません。
実際にスラム化してしまったマンションも存在します。
マンションは皆さんの大切な資産です。専有部だけ綺麗にリフォームしていても、こうなっては資産価値はありません。町を見渡せば、今でも新しいマンションがどんどん生まれています。それとは反対に人口はこの先減っていく一方です。現時点でも、住宅ストックが世帯数を上回っている状況ですから、この先住宅の数が余っていくのは間違いのない事です。その中で空き室だらけにならないよう、建物を美しく保ち、設備等も時代に合わせて陳腐化しないように、長期修繕計画を立てて計画修繕を行っていかなければならないのです。
大切なのは、定期的な見直し。
一度作った長期修繕計画書を絶対の物として、その通りにやっていれば絶対に間違いは無い、と思いこむ事も危険な事です。
年月が経てば、建材の単価や労務費も変化しますし、新しい建材も次々に現れ、改修に使う材料も変わっていきます。又設備に関しても、リフォームに対応した製品が多数開発されており、材料の耐久性も上がって来ています。
そういった時代の変化に合わせ、現実に即した修繕計画を保つ為には、5年に1回程度、長期修繕計画書の見直しを行う必要があります。
特に新築時にデベロッパーが作成した物や、管理会社に依頼して安価に作成した長期修繕計画書は危険です。そういった計画書は、建物の延床面積や階数などの簡単なデータを入力すれば自動で作成されるソフトを使って作られている事が多く、非常に大雑把な、「目安の目安」程度にしかなりません。
大規模改修に当たって調査・診断・改修設計を依頼された場合、必ず各部の詳細な数量書が作成されますので、長期修繕計画書も同時に作成すれば、より細かい数字に基づいた、現実に近い計画書を作成する事が出来ます。
5.大規模修繕工事コンサルタント業務等の実績
パーク・シティ庚午中
工事内容 | 大規模修繕工事 設計・監理業務 |
用途・戸数 | 分譲マンション 住戸数151戸 |
構造・規模 | SRC造 地上14階建・地下1階 |
築年数 | 18年 |
施工期間 | 平成21年12月〜平成22年2月 |
コーラルタウン元宇品公園
工事内容 | 大規模修繕工事 設計・監理業務 |
用途・戸数 | 分譲マンション 住戸数24戸 |
構造・規模 | RC造 地上7階建 |
築年数 | 13年 |
施工期間 | 平成22年2月〜平成22年12月 |
山の斜面地に弓なりに建設された変形平面のマンション。
塩害がひどく塗装の劣化が目立ったため修繕をおこなった。
マンション診断設計協同組合で受注し弊社が担当。
A・CITYヒルズ パレット
工事内容 | 大規模修繕工事 設計・監理業務 |
用途・戸数 | 1番館棟:住戸数47戸 2番館棟:住戸数24戸 2番館棟:住戸数53戸 |
構造・規模 | 1番館棟:SRC造 地上14階建・地下1階 2番館棟:RC造 地上7階建 3番館棟:SRC造 地上12階建 |
築年数 | 13年 |
施工期間 | 平成19年6月〜平成20年1月 |
マンション診断設計協同組合で受注し弊社が担当。
ダイアパレス戸坂出江
工事内容 | 1次調査診断業務 |
用途・戸数 | 分譲マンション 住戸数22戸 |
構造・規模 | RC造 地上5階建 |
築年数 | 17年 |
施工期間 | 平成21年4月〜平成21年6月 |
マンション診断設計協同組合で受注し弊社が担当。
城南通りパークマンション
工事内容 | 第2期大規模修繕工事 設計・監理業務 |
用途・戸数 | 分譲マンション 住戸数32戸 |
構造・規模 | SRC造 地上12階建 |
築年数 | 20年 |
施工期間 | 平成20年4月〜平成20年12月 |
フローレンス西条プールバール弐番館
工事内容 | 外壁修繕工事 監理業務 |
用途・戸数 | 分譲マンション 住戸数48戸 |
構造・規模 | SRC造 地上14階建 |
築年数 | 5年 |
施工期間 | 平成19年8月〜平成20年12月 |
外壁からの漏水修繕工事および後施工スリット工事。
建築士4名で4ヶ月間毎日現場協同監理を行った。